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更なる実践的な研究開発を目指して研究開発エンジニア2名をお迎えしました

まつもとりーです。さくらインターネット研究所では、各研究員が自由に研究をおこないつつも、ひとつの研究所全体のミッションとして、会社、あるいは、業界において今後数年先に必要とされる技術やプロダクトを、ある種の斥候チームとして調査したり研究したりしています

そのような背景の中、各研究員は専門領域の最新研究動向について調査しながら、その中で新しい研究を日々おこなっています。例えば、関連研究を大量に調査して課題を炙り出したり、研究の貢献を示すために沢山のコードを書いて評価したり、その成果や研究のストーリーを論文として言語化したりしています。

一方で、斥候チームとしてのミッションからした時に、そのような調査結果や研究成果を更に使いやすいようにする、例えば、OSSのようなソフトウェアに落とし込んでフィードバックの中からエンジニアがより使いやすいソフトウェアになるように実装したり、今後必要とされるプロダクトをより良いものにするための体系的な知識に昇華したりしていきたいのですが、そういった実践面の取り組みについて、なかなか手が回らないという悩みがありました。それ程、論文というフレームワークを使いながら、研究の価値を示していくことは大変な作業ではあります。

しかし、その価値をソフトウェアとしてエンジニアが当たり前に使ったり、体系的な知識として参考にしたりするような実践的な領域にまで引き上げられないまま、論文やPoCの実装としてのみ残されていくのは大きな損失であると感じていました。

そこで、さくらインターネット研究所では新たに研究開発エンジニアというポジションを設け、研究員が新しい研究として価値を示しつつも、その価値がエンジニアやプロダクト開発の助けとなるような実践的な領域に、研究者と研究開発エンジニアの両輪で引き上げていくための取り組みを開始しました。

そのために、まずは研究開発エンジニアとして2名をお迎えして、引き続きさくらインターネット研究所の研究開発成果やその為に調査して整理した最新の知見を、研究員と研究開発エンジニアの両方向からさらにブラッシュアップし、さくらインターネット、ひいては、業界全体に実践面からも貢献できるように取り組んで参ります。

そこで、本エントリでは、2022年2月からさくらインターネット研究所に配属された2名に自己紹介とこれからの取り組みを簡単に紹介してもらいます。

自己紹介 (田村)

はじめまして、さくらインターネットの田村です。2019年11月に入社して以来、主に新しいプロダクトの開発を行う部署の中で、基盤環境の整備やサービス開発を担当してきました。技術面ではKubernetesや、その周辺に触れることが多く、これまでに行ってきた具体的な取り組みとしては、Cluster APIを利用したカスタムコントローラーの開発などが挙げられます。

今回、さくらインターネット研究所の研究開発エンジニアとして、ソフトウェア開発や調査をはじめとする様々な取り組みに携わっていくことになりました。これまでの経歴の中では、顧客向けのシステム開発や、Webサービスの開発などが主な業務でしたので、少し毛色の異なる環境に身を置くことになります。とはいえ、今までに得た経験を活かせるところもあるかと思いますので、研究から生じる成果がより良いものになるように、研究員の皆様と協力して取り組んで参りたいと思います。

自己紹介 (野田)

はじめまして、さくらインターネットの野田( @sonod00 )です。
2月1日よりさくらインターネット研究所に研究開発エンジニアとしてジョインしました。
これまでは社内で新規プロダクトのマネージメントや開発を行っておりました。
この新規プロダクトをやるまでは別の企業でホスティング関係のインフラエンジニアをやっておりました。
新規のプロダクトを作って行く中で、プロダクトマネジメントやUXデザインの大事さとプロダクトマネージャー以外の職種もプロダクトについて知ることでよりよいプロダクト作りができると感じました。
自分自身、エンジニアをしていた頃はこんなことを考えることはほとんどありませんでした。
しかし、プロダクトに関する知識は、専門的なことも多く何から学ぶべきかわからない部分が多々あります。
そういったプロダクトマネジメントやUXデザインを一般化したりエンジニアとして汎用化していきたいと考えています。
また、今後来るであろうプロダクトを調査したり、タイミングによっては新規プロダクト開発もやっていきたいと考えています。
これから様々な形でプロダクトに関わって行ったり思っておりますので、よろしくお願いします。

チームの絆を深めるための総当り1on1の実施と1on1のときに気をつけていること

さくらインターネット研究所のまつもとりーです。

まずいきなりですが、最初にタイトルにあるように1on1と書いていますが、一般的に1on1というと、1on1をする側とされる側のようなイメージがあるようにも感じています。ですので、ここでいう1on1はあくまでお話する二人が対等でありたいという意図を込めて、研究所では例えば「研究相談会」などとして、する・されるのような立場があまりないようにしています。

いきなり脱線しましたが、ここから本題です。コロナ禍や日常的なリモートワークの影響の中、チームや組織でのコミュニケーションをどう改善するかという取り組みが各社沢山されてきていると思います。さくらインターネット研究所でも、夕方にみんなで集まって雑談したり、もくもく作業をするもくもく会をしたり、定期的な所謂1on1を設定したり、コロナの状況が一時改善したときは、たまにオフィスに集まってリアルにコミュニケーションをとったりしてきました。

また、チームの中でモチベーションが上がらない場合、自分の制御下で会話の場に入らず、コミュニケーションをとらない選択を簡単にできることから、どんどん気持ちが乗らない状況に陥っていくこともあります。そういった状況を避けるために、自分やメンバー間でそういう雰囲気を感じたら、それぞれが任意で会話をしたりしながら、チームのモチベーションを維持してきました。

一方で、それらの取り組みでなかなか改善できていなかった課題を整理してみると、

  1. オープンな場では話にくいような悩みについて相談しにくい
  2. 同僚、あるいは、ある種の仲間として、対等に信頼関係のあるなかでクローズドにざっくばらんに話ができない
  3. 1や2の話は自分の問題であるように矮小化して考えることがあり、同僚に気を使って誘いにくい

といったような状況がありえます。特に、3のような状況が複数のメンバーで生じた場合、任意に気づいた人が声をかけるといったことも起きにくくなり、チーム全体として少しずつストレスを抱え、弱まっていってしましいます。相談や悩みというのは、何でも上司と話たいわけではなく、当然同じ目線や同じ立場で話がしたいこともあるからです。

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Linux eBPFトレーシングのツール実装に必要な知識の体系化と動機

さくらインターネット研究所の坪内(@yuuk1t)です。

昨年末に、個人ブログで公開したLinux eBPFトレーシング技術を体系化して整理した記事を、研究成果の一環として紹介します。

Linuxカーネルの拡張技術であるeBPF(extended Berkley Packet Filter)の普及により、ユーザー定義のコードにより、カーネル内部の関数呼び出しなどのイベントを追跡し計測しやすくなりました。この記事では、eBPFとはなにか、トレーシングにおけるeBPFの位置付け、eBPFトレーシングの技術要素(アーキテクチャ、イベントソース、BCC、bpftrace、CO-RE)、1992年の起源から2021年に至るまでの歴史、eBPFトレーシングツールをプログラミングする方法をまとめました。

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AIOps向けデータセット生成システムの論文をIOTS2021で発表しました

さくらインターネット研究所の坪内(@yuuk1t)です。11月25〜26日に開催された、情報処理学会 第14回インターネットと運用技術シンポジウム(IOTS 2021) にて、”Meltria: マイクロサービスにおける異常検知・原因分析のためのデータセットの動的生成システム”と題した論文を発表しました。

ここ1年ほど、研究員の鶴田さん(@tsurubee3)と一緒に、Webアプリケーションに代表されるクラウドの分散アプリケーションにて、インシデント対応の際に要するオペレーターの認知負荷を、統計・機械学習技術によりいかに低減するかをテーマに研究を進めています。このように、ITオペレーションにAIを活用する分野は、AIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)と呼ばれています。

AIOpsの研究を進める中で、モデルの性能評価に用いるデータの数や品質を高めないと、妥当な評価が難しいという当たり前の知見に気づきました。そこで、評価用のデータセットを作成することについて試行錯誤してきた内容が、本発表のベースになっています。

実際に、本システムで生成されたデータセットを使用して、異常の原因診断手法を次の共著の論文で提案しています。 IOTS2021でゲーム理論のシャープレイ値を用いたシステム異常の原因診断手法について発表しました

ゆくゆくは、単に研究の評価に使うだけでなく、エンジニアが現場に導入する際に、どのモデルを使えばよいのかわからない、といった課題に対して、現場あるいは現場に近い環境でデータセットを生成し、現場に適したモデルを選択できるようなシステムに発展させたいと考えています。

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IOTS2021でゲーム理論のシャープレイ値を用いたシステム異常の原因診断手法について発表しました

さくらインターネット研究所の鶴田(@tsurubee3)です。2021年11月25〜26日にオンラインで開催された第14回 インターネットと運用技術シンポジウム(IOTS 2021)にて、システムの異常の原因診断に関する発表を行ったので、スライドとともに内容を紹介します。

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さくらインターネット研究所で考える企業研究所の活動と価値や意義について

さくらインターネット研究所上級研究員のまつもとりー (@matsumotory) です。

去年度の後半から今年度前半にかけて、さくらインターネット研究所のメンバーの活動や貢献がとても素晴らしいなと思えてきたので、それをより自信を持って取り組んでいけるように、僕自身で企業研究所の活動や価値を考えてまとめたり、カンファレンスで発表したりしてきました。発表してきたスライドも充実してきましたので、本エントリで簡単に紹介していきたいと思います

InfraStudyという勉強会で発表した内容

まずは、研究所の活動がどういうもので、それぞれが会社にとってどう意義があるかについて、InfraStudyという多くのエンジニアが集まるコミュニティの勉強会で紹介しました。また、これらはそのまま社会にとっても価値のある活動にもなっていきます。企業で給料をもらって研究となると、表面的には自由に研究している事自体がどう会社への貢献になっているのか、ということについて疑問に思ったり、活動に自信を持てなくなったりすることで、それは研究者にとっても会社にとってもデメリットでしかないので、それをまずはちゃんと言語化しようと取り組み始めたきっかけの資料です

こういう内容をエンジニアにも理解していただくことで、相互に価値交換をしたり、共同で課題に取り組むことによって、より素早く、根本的な解決を行えるようなったり、新しいテクノロジーで新しい価値を届けるプロダクトを作っていけると良いと考えています

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情報処理学会論文誌 デジタルプラクティスにSSHプロキシサーバに関する推薦論文が掲載されました

2021年10月発行の情報処理学会論文誌 デジタルプラクティス (Vol.2 No.4) に弊研究所の鶴田博文(@tsurubee3)と松本亮介(@matsumotory)が執筆した推薦論文が掲載されました。

論文はこちらで閲覧できます。

以下、著者により論文の内容を紹介します。

推薦論文:ユーザに変更を要求せずにシステム変化に追従可能なSSHプロキシサーバsshrの開発

第一著者の鶴田です。本論文は、2019年の藤村記念ベストプラクティス賞を授賞し、情報処理学会インターネットと運用技術(IOT)研究会からの推薦を受けて、デジタルプラクティスに推薦論文として掲載されました。

本論文では、サーバ管理に広く利用されているSSHにおいて、ユーザがサーバの構成やその変更を意識することなく透過的に目的のサーバにSSH接続ができる仕組みを実現するために、sshrというプロキシサーバを提案しました。sshrは、SSHプロキシサーバに対してシステム管理者が自由にフック関数を実装、組み込み可能なアーキテクチャを採用しており、これによりプロキシサーバの動作をプログラマブルに拡張することができます。sshrは第12回インターネットと運用技術シンポジウム(IOTS2019)にて提案を行いました。今回の論文は、デジタルプラクティスの趣旨に沿うように、より実践的な内容について書いています。具体的には、sshrをシステムに適用する際のシステム構成やフック関数の実装などを例を挙げながら詳しく説明しています。非常に実践的な内容になっているので、ご興味のある方はぜひ論文を読んでいただけますと幸いです。また、提案したsshrのコードはGitHubで公開しているので、IssueやPull requestなども大歓迎です。


共著のまつもとりーです。この研究は、鶴田さん(以降つるべーさん)がさくらインターネット研究所に入ってまず最初に論文化に取り組んだ研究です。当時は、このようなエンジニアとしての活動から生まれたプロダクトをどのように研究へと昇華させ、そのプロダクトの良さをブラッシュアップしながらも、エンジニアとしてある意味では直感的に良いと思った実装を研究に落とし込む最初の取り組みでした。

つるべーさんも、言語化をする中で、このプロダクトの価値ってなんだろうか?他と比べた良さってなんなのだろう?実際にプロダクションで今までになく便利に使えているのだからそこに良さはあるはず、とお互い信じて取り組んできました。時には論文化を諦めそうになることもありましたが、お互いに改めて議論しながら、研究報告や査読付きのシンポジウム、国際会議などを通じて、デジタルプラクティに採録されるほどの実践的な研究として昇華することができました。

この取り組みから、改めて自分自身も、エンジニアが課題に直面したときに作り上げるプロダクトは必ずこれまでにない価値や意義があり、それを言語化することでその価値を論文として永続化させ、さらにそのプロダクト自身の質を、自分たち、あるいは、後世の研究者やエンジニアと共に継続的に高めていけることを改めて確信しました。これがあって、つるべーさんも、引き続き素晴らしい研究開発を行っているため、我々にとってはとても思い入れのある論文となりましたので、ぜひ一度目を通して頂けると幸いです。

謝辞

本研究で提案したsshrの開発を進めるにあたり、多大なるご支援とご助言を賜りましたGMOペパボ株式会社のホスティング事業部の皆様をはじめ多くの方々に厚く感謝を申し上げます。