さくらインターネット研究所で考える企業研究所の活動と価値や意義について
さくらインターネット研究所上級研究員のまつもとりー (@matsumotory) です。
去年度の後半から今年度前半にかけて、さくらインターネット研究所のメンバーの活動や貢献がとても素晴らしいなと思えてきたので、それをより自信を持って取り組んでいけるように、僕自身で企業研究所の活動や価値を考えてまとめたり、カンファレンスで発表したりしてきました。発表してきたスライドも充実してきましたので、本エントリで簡単に紹介していきたいと思います。
InfraStudyという勉強会で発表した内容
まずは、研究所の活動がどういうもので、それぞれが会社にとってどう意義があるかについて、InfraStudyという多くのエンジニアが集まるコミュニティの勉強会で紹介しました。また、これらはそのまま社会にとっても価値のある活動にもなっていきます。企業で給料をもらって研究となると、表面的には自由に研究している事自体がどう会社への貢献になっているのか、ということについて疑問に思ったり、活動に自信を持てなくなったりすることで、それは研究者にとっても会社にとってもデメリットでしかないので、それをまずはちゃんと言語化しようと取り組み始めたきっかけの資料です。
こういう内容をエンジニアにも理解していただくことで、相互に価値交換をしたり、共同で課題に取り組むことによって、より素早く、根本的な解決を行えるようなったり、新しいテクノロジーで新しい価値を届けるプロダクトを作っていけると良いと考えています。
年末のさくらの聖夜で発表した内容
続いて、一つ前のスライドを書きながら思考を整理していくうちに、結局研究が会社や社会にとってどういう意義となり、それらを理解することで、企業の研究者が自分の活動にいかに誇りを持って取り組めるようにすることこそが研究者、ひいては、研究所の生産性や活動を活性化させていくと考えました。それをテーマに、少し資料を圧縮して誇りを持つことに焦点を当てて発表してみました。
僕自身、研究をしながら時には自分の活動に自信を持てなくなったり、それを正当化するために防衛的な思考に陥ったりすることがかつてあったので、少なくともそういうことにならないようにサポートしていきたいという思いがありました。
さくらインターネットと社内研究会で全社向けに発表した内容
少しずつ企業研究所の活動について思考がまとまってきて、社外で発表することによってより多角的な視点でフィードバックを頂きながら内容をブラッシュアップできてきたので、社内向けにもエンジニアや研究者だけでなく、それ以外のすべての職種の方に話を聞いていただく機会を設けました。
研究活動と事業を連携していくためには、どのような取り組みをとって行く必要があるか、また、根本的に信頼関係を気づいていきながら、双方の活動を理解し、HRT、かつ、リーダーシップ・フォロワーシップの心構えで協力していく必要があり、そのためにも、少しずつそういう文化を組織に根付かせていく必要があるような話もしました。
DX Day CTO/VPoE Conference 2021で発表した内容
そして最後に、こうやって少しずつ言語化してきた内容を、非常に大きなイベントであるDX Day CTO/VPoE Conferenceで紹介しました。このイベントでは、様々な企業のCTOやVPoEが集まって、組織論や技術の取り組み方についてお話をしていたり、中にはPFNなど研究をベースとした取り組みについても紹介されており、非常に刺激的なイベントでした。
その中で、さくらインターネット研究所としての活動と価値について、さらには、社内で事業を成立させていく中で必要な取り組み方を、エンジニアリングや研究開発のプロセスを合体させつつ、技術だけでなく、経営やマーケティング、広報、営業、デザイン….などなど、他の取り組みとも組み合わせて話をまとめ上げました。これで一つ、このテーマで考えていたことの現時点での結論とも呼べる状態にまとまったように思います。
まとめ
というわけで、昨年度から今年度の前半にかけて、自分が取り組んできた「企業研究所の活動と価値や意義」についてまとめてきた資料を時系列で紹介しました。現時点でまとまりはしつつも、組織のあり方や技術トレンド、事業と研究の連携が深く進んでいく中で、時代背景も考慮しつつどんどんこの考え方やベストプラクティスも変化していくものだと思っているので、これをベースにさらなるアップデートをかけながら、常に変化していけるような考え方と研究組織のあり方について、引き続き取り組んでいきます。
著者

さくらインターネット研究所 主席研究員、京都大学博士(情報学)、複数社の技術顧問。インターネット基盤技術の研究開発、組織や制度整備、EM、PdM。 Warlanderの公式コミュニティリーダーとしてWarlanderやデルタフォース等のゲーム配信をTwitchで頑張り中。
2008年に現場の技術を知るため修士に行かずにホスティング系企業に就職したのち、2012年に異例の修士飛ばしで京都大学大学院の博士課程に入学。インターネット基盤技術の研究に取り組み、mod_mrubyやngx_mrubyなどのOSSを始めとした多数のOSSへの貢献や学術的成果を修める。
2015年4月より2018年10月までGMOペパボ株式会社にてチーフエンジニアとしてプロダクトのアーキテクトやエンジニア組織のマネージメントに従事すると同時に、ペパボ研究所では主席研究員としてOS・Middleware・HTTPに関する研究、及び、事業で実践できるレベルまで作りこむことを目標に研究に従事。
2018年11月より現職。
第9回日本OSS奨励賞や2014年度情報処理学会山下記念研究賞など、その他受賞多数。2016年に情報処理学会IPSJ-ONEにおいて時流に乗る日本の若手トップ研究者19名に選出される。