さくらインターネット研究所の中田(@chiku_wait)です。2024年12月4日から7日にイタリア、ローマで開催されたThe Ninth ACM/IEEE Symposium on Edge Computing (SEC)にて、”Feasibility of Runtime-Neutral Wasm Instrumentation for Edge-Cloud Workload Handover ”と題したポスター発表を行いました。また、SEC参加者の投票と運営委員による評価の結果、最も優秀なポスターに与えられるBest Poster Awardを受賞しました。発表内容と会議の様子について紹介します。
Feasibility of Runtime-Neutral Wasm Instrumentation for Edge-Cloud Workload Handover
Yuki Nakata (SAKURA internet Inc. / Future University Hakodate); Katsuya Matsubara (Future University Hakodate)
研究の概要
本発表では、WebAssembly(Wasm)を活用したエッジコンピューティング環境におけるワークロードのハンドオーバやオフロードのための、プラットフォームや実行環境に依存しないアプリケーション内部状態取得機構について議論しました。
エッジコンピューティングでは、デバイス・エッジ・クラウド間のライブマイグレーションを活用したワークロードのオフロードやハンドオーバにより、ユーザーの移動への対応や、異なる性能特性を持つ計算資源を組み合わせた柔軟な計算が可能になります。ライブマイグレーションの実現には、アプリケーションランタイムが任意の時点で実行中のアプリケーション状態を保存し、それを復元する仕組みが必要です。Wasmは、仮想命令セットアーキテクチャに基づくアーキテクチャ中立性、高速な実行を可能にするAOT・JITコンパイル、そしてデバイスやエッジ環境ごとに特化した多様なランタイム実装によって、エッジコンピューティングのアプリケーション実行環境として注目されています。しかし、Wasmランタイムは各実装で異なるコード最適化を行うため、内部状態取得が各ランタイムと最適化の複雑な実装に依存してしまいます。また、実行前のバイトコード改変は、バイトコードサイズの増大や状態保存タイミングの制約といった課題があります。
本発表では、セルフホスト型Wasmランタイムを活用した内部状態取得機構を提案しました。この手法により、各ランタイムやコード最適化機構を改変することなく、実行中のアプリケーションの内部状態を取得できます。提案手法による内部状態取得の実行時オーバーヘッドを既存手法と比較し、その実現可能性を評価しました。
また、本研究は、さくらインターネット研究所と公立はこだて未来大学システムソフトウェア研究室における共同研究の一部となります。
ポスター
発表時の様子
Best Poster Award
Chairの方々と著者(左から、General ChairのGeorge Pallis先生、Poster/Demo ChairのElla Peltonen先生、私、共著の松原 克弥先生、Program ChairのAaron Ding先生)
感想
国際会議でのポスター発表は、通常の口頭発表と異なり、台本に頼らずアドリブで英語による議論を行う場面が多く、苦労することもありました。それでも、海外の著名な研究者の方々と自身の研究についての議論できたことは非常に刺激的でした。
今後は、いただいたフィードバックをもとに、提案したセルフホストWasmランタイムの高速化・最適化や論文のブラッシュアップを行っていきたいと思います。