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超個体型データセンターを目指す当研究所のビジョン

こんにちは、さくらインターネット研究所の鷲北です。当研究所は中・長期のビジョンに立ち、3~5年先に役立ちそうなことを考えることを任務としています。このビジョンについては、これまで研究員各位の自由にある程度まかせていたのですが、このほど共通認識としてとりまとめをしてみましたので、ここに公開したいと思います。

総論

クラウド時代の一極集中構造は限界に達しています。エッジ・コンピューティングによる半集中の階層構造を利用しつつもさらに分散化が進み、あらゆるデバイスや場所にデータセンター的な機能が溶け込んでいくことでしょう。しかし、各コンピューティングは独立した個体として機能しながらも、総体としては統率されているように見え、小・中規模データセンターがハブとなって、結果的に全体がうまく繋がれ構成されていくことになります。その様は分散された個体と集中する各個体が群体を成しており「超個体的」と言うべきものです。各コンピューティングが自律的に分散と集中のハイブリッド構造をとるような環境を「超個体型のデータセンター」とし、各データセンターを総体として透過的に扱えるOSを「超個体型データセンターOS」と定義します。

これを以下のように整理します。

  1. 現在はデータセンターに巨大なコンピューティングリソースが存在していますが、今後はレイテンシ/セキュリティ/コスト等の要件から、あらゆる場所や社会、組織にコンピューティングリソースが溶け込んでいくことになります。
  2. それら分散したコンピューティングリソースは、単独でコンピューティングパワーを提供するに留まらず、その場所や社会の要求に応じて、自律的に、分散あるいは有機的に結合し、現場・クラウドそれぞれが縦横に結びついたハイブリッド構造を採るように機能します。
  3. このようなシステムにより実現されるものは、人々の身近に存在し、リアルタイムかつインテリジェンスにユーザを支えながら、しかし同時にバックエンド側が有機的に結合することにより、かつてないマシンパワーとリソース量を動員することで現場最適かつ全体最適をも実現するSuper Organized Worldです。

さくらインターネット研究所は、このようなビジョンのもと、Super Organized Worldを実現する超個体型データセンターシステムやそれを統括管理する超個体型データセンターOSの研究開発を推進していきます。

解説

さくらインターネット研究所では、ビジョンを検討するにあたって様々なキーワードを3つの領域に分類し整理しました。そして当研究所が担うべきテーマは現業ビジネスの外にある様々な領域に広がっています。

さくらインターネット研究所のフォーカス

さくらインターネットはデータセンターおよびインターネット・インフラ事業を核とし、サーバ/ネットワーク/ストレージを組み合わせた様々なサービスを展開しています。またこれらのサービスはクラウドの流れに乗り、ますます重要度を増しています。新ビジネス領域では、数年前から研究開発が進んできた事業がローンチ時期を迎えつつある領域であり、実際に現業ビジネスへシフトしたテーマも多数存在します。一方新技術・研究領域にあるテーマは、ビジネス化にはまだ至らずとも、将来において重要なテーマになると考えられ、あるいは研究テーマとして非常に興味深いトピックと思われるために取り上げられたものばかりです。これらがビジネスとして取り上げられるかどうかは分かりませんが、研究所はその可能性を探ることもミッションの一部であると考えています。

さて、近年クラウドの発展はCLOUD NATIVEという概念の登場に至りました。私(鷲北)の個人的な意見としては、これを「仮想サーバしか知らない世代の登場と、より一層抽象化の進んだインターネットの様相の変化」と考えていますが、一方で物理的な装置が消えてなくなってしまうわけではなく、CLOUD NATIVEの理想郷を支えるためにより多くの物理リソースが準備され、消費されていく必要があると捉えています。そのためにデータセンターはより巨大化していきます。現に、さくらインターネットは石狩データセンターのような巨大な設備を持っていますし、他のクラウド事業者も同様です。世界的に、データセンターは巨大化の一途を辿っています。

近年開発されるビジネスには2つのタイプがあります。ひとつはCLOUD NATIVEの流れに乗り、クラウド的に作られたサービスです。つまり、サーバ・クライアントモデルに則り、クラウド/データセンターに集約されたコンピューティングリソースによって提供される強力な”知能”によって支えられたサービスです。クラウドのメリットは強力なので、こうして作られるサービスも大きな魅力を備えていて、それはそれで結構なことです。

ではもうひとつのタイプのビジネス、サービスとは何なのでしょうか。それはクラウド化が困難な、新しいタイプのサービスです。中央集約的なコンピューティングリソースではレイテンシが大きすぎ判断が間に合わないようなケースや、データが膨大で通信帯域が不足してしまうようなケースがこれに該当します。コンピュータの性能は年々向上していますが、問題の複雑さも同様に上がっているのです。必ずしも、すべての問題がクラウドによって解決されるわけではありません。

さくらインターネットは、2016年4月にOpenFog Consortiumに加入し、研究所より担当所員を派遣してフォグ・コンピューティング、エッジ・コンピューティングの研究を進めてきました。この知見を踏まえ、10年後のビジョンをまとめたのがこちらの図です。

さくらインターネット研究所 中長期ビジョン

さくらインターネット研究所は、現代のクラウドシステムの要請に応じて作られた大規模データセンターは今後主流ではなくなり、コンテナ型データセンターよりも更に小さな規模の可搬型ノードや2、3ラックのセンターが多数(300程度)必要になると予想します。これらの小型データセンターを中心にエッジノード/フォグノードが形成され、IoT過渡期/普及期を経て、スマートビルからスマートシティが具現化していくものと考えるからです。このような変化は3年から5年のうちに始まると予想しています。

これらの小型センターは独立していては役立ちません。相互に有機的に接続されなくてはいけません。また、クラウドの利便性も同時に提供されなければならず、達成されるべき課題は多数あります。これらを取りまとめる中規模データセンターが全国20カ所(政令指定都市の数にあたります)に作られ、クラウド並みのコンピューティングパワーを低レイテンシで提供することになります。

そしてこれらのシステムは、中央から制御されるのではなく、自律分散的に動作する必要があります。現場にあるモノが真の意味で賢くなり、それらが相互に連携することによって、これまでになかった新しいコンピューティングの姿が生まれると考えます。このようなインフラを支えるものを、我々は「超個体型データセンター」と名付けました。

超個体型データセンターの実現には、様々な要素技術が必要です。それらを統合していくことで、将来「超個体型データセンターOS」と呼べるものが完成するに違いありません。さくらインターネット研究所はそれら要素技術の研究開発にとりかかり、未来のデータセンター実現に向けて進んでいく所存です。